ストレスとウェルビーイング
Ⅰ.ストレスとは?
「ストレス」とは、外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態のことを指します。私たちの日常生活の中で起こる様々な変化は刺激になり、この刺激がストレスの原因になります。
このストレスは、いくつかの段階からなるプロセスとして考えることができます。まず、ストレスを生じさせるきっかけとなる出来事や刺激は「ストレッサー(ストレス要因)」と呼ばれています。ストレッサーは、そして、このストレッサーによって生じる心身の変化は「ストレス反応」と呼ばれています。ストレス反応には、身体的側面・精神的側面・行動的側面の3つの観点があり、人によってその反応は様々です。「ストレッサー」から「ストレス反応」が生じるまでの一連のプロセスには、出来事に対する受けとめ方(認知)、対処方法、考え方、周囲からのサポートの有無などが関係しています。
自分のストレスは何か、そして自分は今どのような状態にあるかを整理し、どのように改善すればよいかを具体的に考えることがストレス解消のためには必要です。
ストレスの定義としては、4つの考え方があります。
①ストレスはその状態を引き起こす出来事であるという考え方(ストレッサー)
②ストレス反応(身体的症状・精神的症状)
③人がその出来事をストレスと受け止めるために精神・身体的症状であるストレス反応が起きるとする考え方
④ストレスを全体的な現象とし、一つの出来事や状況がストレスになるのではなく、さまざまな要因がストレスに影響を及ぼすという考え方
Ⅱ.健康の4つの局面
厚生労働省は、こころの健康を以下のように説明しています。
こころの健康は、いきいきと自分らしく生きるための重要な条件で、「生活の質」に大きく影響するものです。これら4つの局面は互いに機能して、ストレス過程やストレス対処に影響を及ぼすとされています。
①自分の感情に気づいて表現できること(情緒的健康)
②状況に応じて適切に考え、現実的な問題解決ができること(知的健康)
③他人や社会と建設的でよい関係を築けること(社会的健康)
④人生の目的や意義を見出し、主体的に人生を選択すること(人間的健康)
Ⅲ.ストレッサー(ストレス要因)
個人が脅威に感じ、損失や害をもたらすと認識する刺激はどんなものでもストレッサー(ストレス要因)となりえます。ストレッサーは、外部からの刺激の種類によって、次のように大きく4つに分けることもできます。
①天候や騒音などの環境的要因
②病気や睡眠不足などの身体的要因
③不安や悩みなど心理的な要因
④人間関係がうまくいかない、仕事が忙しい等の社会的要因
一方で、進学や就職、結婚、出産といった喜ばしい出来事も、日常の中に大きな変化を生じさせます。変化はプラスの出来事であっても刺激となりますので、実はストレスの原因になりうるのです。
ストレス解消法や対処法を検討する前に、まずは、自分のストレッサーに気が付くことが重要です。
Ⅲ.ストレス反応
日常生活や社会生活を健康的におくるためには、身体とこころのバランスを保つことが重要です。ストレスへの対処法や解消法を適切に講じるためにも、自分の「ストレス反応」の傾向(現れ方)を把握する必要があります。ストレス反応は、身体的側面・精神的側面・行動的側面の3つの観点から見ていきます。
①身体的側面
・体がかたくなる
・首や肩がこる
・心臓がどきどきする
・顔が熱くなる
・息が速く浅くなる
・手足が冷たくなる
・冷や汗、いやな汗がでる
・目や口の中が渇く
・気分や具合が悪くなる
・胸、胃、お腹、腰、頭など体のどこかが痛くなる
・疲れる、だるい
・眠くなる
②精神的側面
・いらいらする、腹が立つ
・興奮する、落ち着かない
・緊張する、心配になる
・自信がなくなる
・悲しくなる、泣きたい
・さみしくなる
・いやなことを思い出す
・気が散る、集中できない
・退屈、やる気がなくなる
・やけくそになる
・暗い気分になる
・家に帰りたくなる
③行動的側面
・ひとりごとを言う
・歯をくいしばる
・顔が引きつる、表情が硬くなる
・机や物を叩く
・こぶしを握り締める
・にらみつける
・口調や話し方がかわる(声が大きくなる、早口になる)
・ため息が出る
・よそ見が増える
・周囲が気になる
・姿勢が崩れる
・ミスが増える
・能率が下がる
・貧乏ゆすりをする
・足をふみならす
Ⅳ.ストレス・コーピング
ストレスコーピングとは、日常的に行うストレスケアのことです。私たちは、仕事・人間関係・結婚・家族・健康・子育て・お金など、様々な外部刺激から受けるストレス(理想と現実の差)を常に感じながら生活していますが、そのストレスを意識しないまま溜めていったり、気づいても「これくらい」と放っておいたりすると、それが精神的に大きなダメージとなって、病気や退職など、日常生活に支障をきたすまでになります。
〇ストレス・コーピングリストを作成しよう
ストレス反応に気が付いた時には、まずは自分でできるセルフケアに取り組むことがおすすめです。すぐに取り組めるように、事前に「ストレス・コーピングのリスト」を作成しておくとよいでしょう。適切なタイミングで、リストにある行動を実践し、自分の心と体をケアしていきましょう。リストは、漠然とした抽象的なものにならないよう、できるだけ具体的にすることが大切です。
【ポイント】
①なるべく固有名詞を入れてください。
(「美味しいものを食べる」より、「○○寿司の特上チラシを食べる」、「休みの日はゆっくり過ごす」より「週末の夜は、コーヒーを飲みながら○○(映画、TV番組、漫画など)を見る」、など)
②5W1H(いつ、何を、どこで、誰と、どのように)が分かると、更に具体的なものになります。
(例:給料日に、課の女性社員と○○にワインを飲みに行く)
最終的には、その行動をしている自分が明確にイメージできるかどうか、そして、そのイメージの中の自分は楽しそうか・リラックスしているか、が成功のカギとなります。逆に言えば、そうでないものは、非現実的で、やる気をもたらさないということです。計画しても達成されない行動は、新たなストレスを生むだけなので、すんなりと気持ちのよいイメージができるような、ハードルの低いものに書き直してください。
このリストは定期的に見直して、新たに元気になれる行動を追加したり、もう、やってもストレスがケアされないような行動は修正したり、削除したりしながら、常に「今の自分」に合ったものにしましょう。
そして、セルフケアに加えて、自分自身では対処できない場合の相談先を明確にしておくことも重要です。こちらも、「誰にどのように相談できるか」を具体的に考えておいてください。